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高松高等裁判所 昭和24年(ネ)76号 判決 1949年12月05日

主文

本件控訴はいずれもこれを棄却する。

控訴費用は控訴人等の負担とする。

事実

各控訴代理人は原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とするとの判決を被控訴代理人は主文と同旨の判決をそれぞれ求めた。

当事者双方の事実上の供述は被控訴代理人において本件農地は被控訴人から訴外市原明良に賃貸したものである。また本件訴願棄却の裁決の謄本は昭和二十二年七月中旬被控訴人に送達されたと述べた外、いずれも原判決事実摘示と同一であるから茲にこれを引用する。

(立証省略)

理由

別紙目録記載の農地は被控訴人がこれを所有し訴外市原明良がこれを被控訴人から賃借して小作していたこと、控訴人波介村農地委員会が右農地について昭和二十二年五月十一日買収計画を定めたこと、これに対して被控訴人から異議の申立をしたが却下され、さらに訴願したが控訴人高知県農地委員会は同年七月十日訴願棄却の裁決をし該裁決書の謄本が同年七月中旬被控訴人に送達されたことは当事者間に争がない。

然るところ成立に争のない甲第一第三各号証に原審証人市原潤恵の証言を綜合するときは別紙目録記載の農地は被控訴人が昭和十五年初頃その孫厚寛を訴外市原明良の養子とするに際しこれを厚寛に分与することとしたが都合により厚寛を実家たる被控訴人方から通学させることとしたので右土地の所有権の移転は一応留保して賃料(小作料)を年一坪につき籾一升五合の約で明良にこれを賃貸しその賃料(小作料)を以て厚寛の学資等に充てることを約し原来明良がこれを耕作していたがその後昭和二十一年二月厚寛は明良と協議離縁したので同月二十八日控訴人は明良と合意の上右土地に対する賃貸借契約を解除し同年五月頃同人から右土地の返還引渡を受け原来自作して来たことが認められる。乙第一、第三各号証、原審並びに当審証人市原明良、当審証人市原直美の各証言中右認定に反する部分は採用し難く、その他控訴人等提出援用の証拠によつては右認定を左右するに足らない。そして右土地の買収が明良の請求により昭和二十年十一月二十三日現在の事実に基き遡及してなされたものであることは当事者間に争のないところであるが前記の如く明良は厚寛を養子に貰うに際しその学資等に充てる趣旨で本件農地を賃借し、離縁に際し被控訴人と合意の上適法に返還して置きながら遡及して買収の請求をするが如きは自作農創設特別措置法第六条の二第二項第二号(同法附則第二条)にいわゆる小作人たりし者の請求が信義に反するものといわなければならない。従つて本件土地についての買収は違法である。

されば別紙目録記載の土地について控訴人波介村農地委員会が定めた買収計画並びに控訴人高知県農地委員会が被控訴人の訴願を棄却した裁決違法であつて取消を免れない。故に被控訴の請求を認容した原判決を相当とし民事訴訟法第三百八十四条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。(昭和二四年一二月五日高松高等裁判所民事部)

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